がんが発生するメカニズムは原理原則がほぼ解明されている。
がん細胞は通常の細胞が分裂増殖する際に何らかの原因で発生するミスコピーなのだ。人間だけでなく動物は全て生きている間は自らの既存細胞を分裂させて新しい細胞を生成し、古い細胞は寿命を迎える、いわゆる新陳代謝を行っている。人間の細胞の総数は約60兆個と推定されているが、この内、毎日約20%に相当する15兆個の細胞が死に、新しい細胞へと生まれ変わる。最もサイクルの早い腸管粘膜細胞の場合には1~2日で脱落死亡する。(唯一の例外は脳細胞で、3歳頃まで増殖するもののその後は全く増えない。記憶を司る脳細胞には新陳代謝が無く、細胞数が10歳代から減少に転じてゆく)
脳を除く全ての体内の細胞は骨を含めて、3~4ヶ月で全てが新しい細胞に置き換わるのだ。その入れ替わりのために、1秒間に約5000万個の細胞が新しく生まれている。
この新しい細胞を生成する過程でDNAにミスコピーがある細胞=「がん細胞」が発生するのだ。がん細胞は通常細胞のように時間を経ることで死に至る機能(アポトーシス)が無い。つまりがん細胞は自身では減ることなく増えるだけ。ミスコピーであるために本来あるべき機能を持たない細胞は存在している臓器が機能不全となるだけでなく、がん細胞の増殖によって隣接する他の臓器までも圧迫する。
このように日々に体内で発生するがん細胞は2000~6000個と推定されるが、通常の健康状態であればこれらのがん細胞は毎日免疫システムに駆除されて残らない。免疫細胞にとってがん細胞は異物と認識するために、基本的には細菌、ウィルスに対するのと同様にがん細胞も駆除の対象として処理され、無害化されている。
しかし、何らかの原因で日々に発生するがん細胞が免疫システムの処理能力を超えてしまうと、毎日に取りこぼしのがん細胞が残ることとなる。またがん細胞の出現数は通常どおり数千個の場合でも免疫システムが弱体化していると、がん細胞の駆除が間に合わないことになる。がん細胞の取り残しは、がん細胞の増殖を許し、一旦増殖を始めたがん細胞は鼠算的に増えてしまうのでえある。その時間は驚くほど短期間だ。
免疫力の低下、もしくは、免疫力を超えるがん細胞が発生した場合に、がんが発病することは疑いの無い事実だ。加齢による免疫力の低下で老齢者ががんを患うことが多いこともその証明の一つと言えるだろう。
免疫力は近年になってその機能の解明が始まったばかりのまだまだ未知の機能だが、免疫力を高めることでがんが抑制され、相性次第では治癒すらする可能性が高いことは、人類が長い歴史で得た生活の知恵だ。しかし、患者や家族にしてみれば、効果の有る治療法であればその理論的な裏付けは必須なものではなく、経験則のレベルで、また結果論として治療法が有効ならそれで十分なのだ。βグルカンを用いたがん治療は、生活の知恵と近代科学が結晶した治療法と言えるだろう。
ベータグルカンが明確にがんの治療という目的に対して用いられた歴史の始まりは、1940年代の米国に遡る。1941年に米国のルイス・ピレマー博士がパン酵母(イースト菌)から取り出した物質ががんに効果的である実験結果を得た。この物質は「ザイモサン」と名付けて抗がん剤として広まった。
その後、数十年を経て、さらに抽出精製の技術が発達したザイモサンはいつしかパン酵母ベータグルカンと呼ばれる健康食品の一大分野へ飛躍したのだった。その間、ベータグルカンの抽出技術が発達したことで高純度化が達成され、並行してがんや高血圧、糖尿病や肝炎に対する適用症例が数千例も試行された。
ベータグルカンのがんに対する作用は免疫力システムを介した間接的な作用である。本来、体内の異物であるがん細胞は免疫システムによって駆除されるべき存在だ。しかし、何らかの原因でがん細胞の駆除が間に合わないことでがん細胞が過剰増殖した状態ががんの発病である。がん細胞の発生が多過ぎる場合や、がん細胞は通常数の発生でも免疫力の低下で駆除が追いつかない場合に、発生するがん細胞と駆除されるがん細胞のアンバランスが生じ、がん細胞の増殖原発が形成される。
ベータグルカンはこの免疫システムの活力を上げることで、駆除されるがん細胞の数を増やす機能がある。増えるがん細胞以上に駆除されるがん細胞が多ければ、がんが縮小または消失するという仕組みだ。
この免疫細胞によるがん駆逐作用は既存のがんを抑制または縮小することもあれば、他の部位へのがん細胞の転移を抑制する効果が期待できる。免疫システムは全身にくまなく張り巡らされており、マクロファージをはじめとする免疫細胞がベータグルカンで活性化されることで、原発巣のがんから転移してゆくがん細胞までも捕捉して駆除してくれるからだ。
米国大統領ロナルド・レーガン氏ががん治療に使用したことが近代のパン酵母ベータグルカンの象徴的な使用例であろう。